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この時期の文学の特質 “第三の新人”が文学上の新世 代を意味する一つのグループと して注目されるようになったの は昭和二十八年はじめのごろか らであったが、それから間もな い昭和三十年下半期の芥川賞に 石原慎太郎の“太陽の季節”が 当選し、ひきつづいて三十二年 下半期の芥川賞に開高健の“裸 の王様”が当選し、また昭和三 十三年下半期には大江健三郎の “飼育”が当選した。“第三の 新人”とは全く違う新しい文学 的世代が登場した

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この時期の文学の特質 殊に石原慎太郎の“太陽の季 節”に対しては賛否両論である。 この作品に基づいて言われるよ うになった“太陽族”という新 風俗現象が広く問題化した。そ れに伴ってこの作品もベストセ ラーとなり、従来の文学読者の 範囲を超えて、“無軌道な若者 に顰蹙する”年長者たちと、そ れに反発する青年たちとの対立 をめぐる論議が至るところで呼 び起こされた

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この時期の文学の特質 昭和三十二年、大江健三郎の処 女作『奇妙な仕事』は平野謙に よって「毎日新聞」紙上で改めて 現代的なすぐれた作品として押 し出され、続いて発表した『死者 の奢り』などでその実力が広く認 められた。同じ頃に『パニック』で 登場した開高健は新鮮な社会 的追及で注目された。“第三の新 人”たちの活動はその後も盛んに つづけられたが、時代の文学の波 頭はたちまちこの石原· 開高· 大 江という新世代に取って代わら れたのである

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この時期の文学の特質 石原の“太陽の季節”は拳闘選 手の学生津川と、英子というブ ルジョアの娘との恋愛を描きな がら、“自由”に焦立つ戦後世 代の青春の孤独さをえぐった画 期的な作品である。作品におけ る主人公は既成の秩序や習俗や 思想に対して開きなおっている ところがあり、自分が自分の自 我充足を遠慮会釈なく追及して いる。作者もこういう立場に よって快楽的な自我充足の手ご たえを様々描き出すことに成功 している

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この時期の文学の特質 戦後派をも含めて明治以来の日 本近代文学の抱いてきた自我主 義・個人主義が、民主主義的な 人間関係への要求や理想を含ん でいるのに対して、ここでは極 めてエゴイスティックな範囲で の自我の快楽充足のために何物 も顧みぬというたぐいの新たな 個人主義的自我主義としてむき だしなままで自信を持って登場 してきた。それだけに風俗的に も目新しい世界をつくりだした のであった

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この時期の文学の特質 この作品の特色は既成秩序や 観念を踏みにじってもっぱら スポーツやセックスとの快楽 追及の手ごたえにすきまのな い自我充足をつくりだしてい ることの表現の方に見いださ れる

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この時期の文学の特質 この作品に示されていたむき出 しなエゴイズムと自信に満ちた その自己肯定は、朝鮮戦争によ る経済での繁栄をテコとして、 急速に独自な支配力を確定した。 独占資本は既成の秩序を武器と して使いながら、その既成秩序 の根元だった天皇制を実質的に はかなぐり捨てて、資本による むき出しのエゴイズティックな 利益追求の支配体制を確立した ため、そういう新型の個人主義 体制にふさわしい新しい個人の 登場をも必然的なものにした

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この時期の文学の特質 開高健は中篇『パニック』を書 き、続いて『裸の王様』を書い て芥川賞を受けた。『パニッ ク』は開高の出世作で、ある県 庁山村課の一青年が地主の短見 と官庁組織の官僚主義や腐敗の ために疎外されたことをテーマ にした。作者は青年の側から鮮 やかに描き、特に移動する大群 のねずみを描写する豊富奔放な 想像力、表現力と組織の官僚組 織をあばく立ち入った批評力と で注目されたのである

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この時期の文学の特質 しかし、そのすぐれた青年を疎 外し孤独にした官僚組織をねず みの大群によって存分に攻撃さ せ蹂躙させているという作品の 構図の背後には現代の巨大組織 のもとで個人がどうしようもな いところに追いつめられている、 という絶望感があり、つまり強 固になった体制への個人の絶望 的対立を受け身の形で描き出す ことによって社会的な悪に対し て一層立ち入って批判的な鋭い 追求力で立ち向かっている

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この時期の文学の特質 開高と大江は資本主義の高度成 長社会のアニマル的経済支配体 制とその秩序に当初から鋭く対 立していた。大江健三郎は“学生 作家”として文壇に登場してから 引き続き『死者の奢り』『飼育』 『人間の羊』『芽むしり仔撃ち』な どの作品を書いた。この作家は主 題上でも関心や思想の上でも、 イメージの展開のしかたのうえで も常に新しい大胆な冒険を試み て大きな振り幅を示し、それだ けに成功作と共に失敗作は少な くなかった